東京高等裁判所 昭和49年(う)951号 判決
被告人 武原光志 外二名
〔抄 録〕
二 控訴趣意第二の論旨(訴訟手続の法令違反)について。
所論は、原判示第三の事実(被告人村上関係)につき原審公判で宣誓証言を拒否した松田の検察官に対する供述調書を、任意性を調査せず、信用性等を吟味しないで刑訴法三二一条一項二号前段により罪証に供した原判決には、同法三二五条、三二一条一項二号、三二〇条ひいては憲法三七条二項に違反する違法、もしくは、証拠の価値法則に違反する訴訟手続の法令違反(あるいは事実誤認)があると主張する。
原審記録および当審で取調べた検察官作成の「検察官調書の取調請求について」と題する報告書によれば、松田の検察官に対する供述調書は、原審第八回公判で刑訴法三二一条一項二号前段の書面として取調べられたものであるが、これに先だち、松田は第五回公判に証人として出頭したさい、裁判長の人定質問や宣誓・証言するようにとの再三の説得に対し、終始黙秘し、全然応じようとしなかったこと、検察官も入廷直前再三同様の説得を試みたこと、当時松田は他の事件で勾留中であり、自己の氏名を含めて一切の事実を黙秘していたこと、しかも松田の検察官調書は、本件が発生してから約一か月後に同人が被害事実を供述したのを録取し、これを読み聞かされたうえ署名・押印したものであり、その内容は、事案(原判示第三)の立証に必要欠くことのできないもので、信用性の保証にも欠けることはないこと等の事情が認められる。
思うに刑訴法三二一条一項二号前段の規定は、被告人が全く反対尋問権を行使できない例外的な場合であるから、その解釈適用に慎重を期すべきことはいうまでもない。しかし、刑訴法が同条を設けた趣旨(実体的真実の発見)にかんがみると、右前段で供述できない原因として挙げられている事由は絶体的・限定的なものでなくこれと同程度の事由があれば足りると解するのが相当である(証言拒否に関する最高裁判所昭和二七年四月九日大法廷判決、刑集六巻四号五八四頁参照)。この観点から先に列挙した事情、とくに本件では、どんなに手を尽しても松田から証言の得られる見込みがなく、これは「精神若しくは身体の故障により……供述することができない」場合に比せられるべき事由と思われることを考えると、松田の検察官調書は同条一項二号前段の書面にあたり、証拠能力を有すると解せられる。所論は、証人が公判廷で宣誓を拒否することは証人が捜査官に対する供述の信用性を自ら放棄したものとみなされるというが、すでに説いたところ、および同人の立場からみてそのように解することは困難である。また所論は、右供述調書につき、任意性の調査が行われていない、果して松田の供述を録取したものであるかどうかの検討さえされていないなどと主張するが、任意性の調査方法に制限がないこと、松田は被害者として取調べられたのであって、供述を強要されるような立場になかったこと、同人が調書の末尾に署名・押印したことは疑いないこと、原審で何ら所論の点が争われていないこと等に徴すれば、所論のような違法があるとは考えられない。論旨は、いずれも理由がない。
(横川 斎藤 中西)